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愛が止まらない!映画フリークがお届けする #シネマフリーク “神は見返りを求める”


長引く自粛生活の影響で、ストリーミングサービスなどを利用したおうち映画が主流となった昨今、映画館で最新映画を観る機会がぐんと減ってしまった。おうちで好きな時に観られる手軽さもいいけれど、臨場感抜群の最新作品をシネコンの最新鋭の設備で観たり、映画好きたちが集うミニシアターの空気に包まれるという何にも変えがたい鑑賞体験はいつまでも忘れずにいたいと思う。そんな映画フリークなライターによる、今劇場で観てほしい作品を紹介してゆく新連載「CINEMA FREAK」。


第八回は、“YouTuber” という職業を通して、今の時代を象徴的かつポップに描きながら、欲や嫉妬と言った人間の抱く醜さや葛藤を鮮烈に映し出したエンタテインメント傑作『神は見返りを求める』。

  • タイトル:『神は見返りを求める』
  • 監督:𠮷田恵輔
  • 出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎
  • 配給:パルコ
  • 2022年製作/105分/日本
  • 6月24日(金)TOHOシネマズ 日比谷、渋谷シネクイント他全国公開!
  • 笑えるのに胸焼けする度 ★★★★★
  • こんな人におすすめ・・
  • 人間の本音と建前を覗く勇気がある人/ハイスピードな展開の物語が好きな人

主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・ゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会う。田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」の様に見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになる。登録者数がなかなか上がらないながらも、前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていく。そんなある日、ゆりちゃんは、田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuberチョレイ・カビゴン(吉村界人・淡梨)と知り合い、彼らとの “体当たり系” コラボ動画により、突然バズってしまう。イケメンデザイナ一・村上アレン(栁俊太郎)とも知り合い、瞬く間に人気YouTuberの仲間入りをしたゆりちゃん。一方、田母神は一生懸命手伝ってくれるが、動画の作りがダサい。良い人だけど、センスがない…。恋が始まる予感が一転、物語は“豹変”する——!

©2022「神は見返りを求める」製作委員会

本作は、『ヒメアノ〜ル』(2016)、『空白』(2021)といった話題を世に送り、“人間の心理をえぐる鬼才” と称される吉田恵輔監督が2019年に書き上げたオリジナル脚本によるもの。コロナ前に出来上がっていたとは思えないほど、現存する閉塞感とそこから脱したいあまりに自分を見失う人間の狂気が滑稽に描かれており、今の時代を象徴する作品に仕上がっている。

神様のように見返りを求めない心優しき会社員・田母神を演じるのは、映画や舞台、ドラマなどで唯一無二の個性を発揮するムロツヨシ。本作では持ち前のおちゃらけキャラを完全封印し、優しすぎるあまり周囲から利用されがちで少し残念な中年男性を見事に表現している。共演は高い演技力と柔軟性から映画にドラマにと引っ張りだこの気鋭女優、岸井ゆきの。明るくて一生懸命ながらどこか浅はかでイタい底辺YouTuber・ゆりちゃんが、とあるきっかけで欲と憎悪にまみれた女性へと変貌を遂げる姿をいきいきと怪演した。吉田監督によるコミカルな演出の中で、二人が本来の役者像を一変させるほどの猟奇的な演技をぶつけ合う様子は、本作の中で大きな見どころの一つといえるだろう。

©2022「神は見返りを求める」製作委員会

周囲の人々から侮られて生きてきた男女が出会い、見返りを求めない無垢な関係性に安堵した直後に、運命の歯車が狂い出すさまを否応なく見せつけられるのは、まるでジェットコースターに乗っているような感覚だ。「全員クズ!」と叫びたくなるほどの登場人物たち一人ひとりの心の醜さや狂気の連鎖に笑いながらもどこか胸糞の悪さを植え付けられ、エンドロールが流れる頃にはこの物語に笑った自分はA面、B面どっちが本音なんだろうとモヤモヤしてしまう。

©2022「神は見返りを求める」製作委員会

最後に、この映画の魅力はその二面性を突きつけるだけではなく、その先の可能性についても示唆しているところにあると思う。良くも悪くも人間は変わってしまうし、逆に言えば変わることができる。まるでラップバトルのようなカオスな感情の応酬の先に二人が得るものはなんなのか。そこに希望を見るのか、絶望を感じるのかは自分次第。吉田作品ならではの答えのないモヤモヤを考察し、誰かと話すことで、自分の中にはなかった新たな感情や思考と出会うきっかけになるかもしれない。

©2022「神は見返りを求める」製作委員会