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愛が止まらない!映画フリークがお届けする #シネマフリーク “グロリアス 世界を動かした女たち”


長引く自粛生活の影響で、ストリーミングサービスなどを利用したおうち映画が主流となった昨今、映画館で最新映画を観る機会がぐんと減ってしまった。おうちで好きな時に観られる手軽さもいいけれど、臨場感抜群の最新作品をシネコンの最新鋭の設備で観たり、映画好きたちが集うミニシアターの空気に包まれるという何にも変えがたい鑑賞体験はいつまでも忘れずにいたいと思う。そんな映画フリークなライターによる、今劇場で観てほしい作品を紹介してゆく新連載「CINEMA FREAK」。


第七回は、60年代から現代に至るまで女性解放運動のパイオニアとして走り続けてきたグロリア・スタイネムの激動の人生を描いた映画『グロリアス 世界を動かした女たち』。

  • タイトル:『グロリアス 世界を動かした女たち』
  • 監督:ジュリー・テイモア
  • 出演:ジュリアン・ムーア、アリシア・ヴィキャンデル、ティモシー・ハットン、ジャネール・モネイ、ベット・ミドラー
  • 配給:キノシネマ
  • 2020年製作/147分/アメリカ
  • 2022年5月13日よりkino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開中
  • 女性たちのエネルギーに感化される度 ★★★★★
  • こんな人におすすめ・・
  • フェミニズムの歴史に興味がある人/歴代のアメリカファッションが好きな人

大学生でインドに留学をしたグロリアは、男性から虐げられている女性たちの悲惨な経験を聞き、帰国後はジャーナリストとして働き始める。だが、社会的なテーマを希望しても、女だからとファッションや恋愛のコラムしか任されない。そこでグロリアは高級クラブの「プレイボーイ・クラブ」に自らバニーガールとして潜入。その内幕を記事にして暴き、女性を商品として売り物にする実態を告発する。更にはTVの対談番組に出演するなど、徐々に女性解放運動の活動家として知られ始める。40代を迎えた頃は仲間たちと共に女性主体の雑誌「Ms.」を創刊する。これは、未婚女性=Missや既婚女性=Mrs.とは別に、どんな女性にも使える新しい敬称=Ms.として、全米各地の女性に受け入れられていく──。

© 2020 The Glorias, LLC

2017年に端を発した “#MeToo” をきっかけに、改めて世界中で声高に叫ばれるようになったフェミニズム。古いものでは17世紀から存在し、時代の変化とともに拡張し続けている。その中でもとりわけ大きく世界を動かしたといわれる第二波フェミニズムの立役者であるグロリア・スタイネム。自らの潜入体験をもとに女性を商品として扱うビジネスの実態を暴いた「プレイボーイ・クラブ潜入記」の発表や性差を乗り越える意思を表明した雑誌『Ms.(ミズ)』の刊行など革新的な活動によって全米女性解放運動のパイオニアとして活躍した彼女は、88歳の今もなお世界中に多大な影響を与えている伝説的なフェミニスト。そんな彼女による回顧録『My Life on the Road(原題)』をブロードウェイ・ミュージカル「ライオンキング」の演出で女性初のトニー賞を受賞したほか、『フリーダ』(2002)、『アクロス・ザ・ユニバース』(2007)といった映像作品でも知られる鬼才ジュリー・テイモアが実写化した。

© 2020 The Glorias, LLC

本作でグロリア・スタイネムを演じるのは、ジュリアン・ムーア、アリシア・ヴィキャンデルといった実力派俳優たち。7歳、12歳、20歳〜40歳、40歳以降とそれぞれの年代のグロリアを役者が時系列に演じるだけでなく、ときおり入れ替わり「今の私ならこう返す」というような若さゆえの弱さに立ち向かう方法があることを教えてくれる。さらに、旅商人だった父、レオ・スタイネムから影響を受けたグロリアのこれまでの人生を旅になぞらえ、「時を越えたバス」を舞台にさまざまな年代のグロリアが対話を行い、自らの過去を振り返ってゆくという演出はエモーショナルな感情を呼び起こすものとなっている。

© 2020 The Glorias, LLC

「私たちの闘いは、マラソンではなくリレーなのだ」とグロリアが語るように、さまざまな思想や主張の先に広がるいくつもの連帯の形を見ることで、全ては共感できなくても自分なりのフェミニズムをいくらか見出すことができるはずだ。同時代を生きたフェミニズム理論家/作家/批評家のベル・フックスは、「フェミニズムとは性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動のこと」と定義し、そこに特定の敵はなく、女性だけのものではないことを表している。本作においてもその点は丁寧に描かれていて、性差別的な搾取や抑圧があるという前提はあるものの、作品に出てくる男性が女性の成功を左右するようなキャラクターとして描かれていないのは特徴の一つと言えるだろう。マスコミの扇動や反対派の過激な攻撃といった活動のハードルだけでなく、育児や年齢に伴う体力の変化などパーソナルな悩みにも寄り添い、一人ひとりがどのように生きていったのかということに焦点を当てることで個人的な物語としての役割も果たしている。

© 2020 The Glorias, LLC

作中では、グロリアの他にもフローリンス・ケネディ、ベラ・アブツーグ、ウィルマ・マンキラーといったさまざまなバックボーンを持つ同時代の女性活動家が登場する。歴史を振り返ると、白人の特権階級の女性活動家が長い間もてはやされ、男女平等を訴えながらも階級間、人種間の不平等はたびたび後回しにされてきた。しかし、その裏でグロリアのような労働者階級出身の白人女性や黒人女性、アジア女性、また長年虐げられてきた先住民といった多様な立場の女性たちが手を取り合って団結してきたという事実を改めてしっかりと描き出すことで、辛抱強く変化のために力を尽くしてきた彼女たちのバトンが私たちの手元にもしっかりと受け継がれていることをスクリーンを通して体感することができるだろう。

© 2020 The Glorias, LLC