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愛が止まらない!映画フリークがお届けする #シネマフリーク “カモン カモン”


長引く自粛生活の影響で、ストリーミングサービスなどを利用したおうち映画が主流となった昨今、映画館で最新映画を観る機会がぐんと減ってしまった。おうちで好きな時に観られる手軽さもいいけれど、臨場感抜群の最新作品をシネコンの最新鋭の設備で観たり、映画好きたちが集うミニシアターの空気に包まれるという何にも変えがたい鑑賞体験はいつまでも忘れずにいたいと思う。そんな映画フリークなライターによる、今劇場で観てほしい作品を紹介してゆく新連載「CINEMA FREAK」。


第六回は、映画監督・マイク・ミルズと俳優・ホアキン・フェニックスがタッグを組んだ話題作『カモン カモン』。

  • タイトル:『カモン カモン』
  • 監督:マイク・ミルズ
  • 出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング=ホワイト
  • 配給:ハピネットファントム・スタジオ
  • 2021年製作/108分/アメリカ
  • TOHO シネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
  • 人との関わり合いについて考えさせられる度 ★★★★★
  • こんな人におすすめ・・
  • アメリカの街並みをスクリーンで味わいたい人/子供とのコミュニケーションに悩む人

アメリカ中を回って子供たちにインタビューしているラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)は、妹から頼まれて9歳の甥ジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を数日間みることになり、ロサンゼルスの妹の家で甥っ子との共同生活が始まる。好奇心旺盛なジェシーは、疑問に思うことを次々とストレートに投げかけてきてジョニーを困らせる一方で、ジョニーの仕事や録音機材にも興味を示し、次第に距離を縮めていく2人。仕事のためニューヨークに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが……。

『20センチュリー・ウーマン』(2016)では自身の母親を、『人生はビギナーズ』(2010)では父親をモデルとした実体験から親密な映像作品を作り続けてきたマイク・ミルズが最新作『カモン カモン』で描くのは、突然始まった共同生活に戸惑いながらも歩み寄っていく中年ラジオジャーナリストの主人公と甥っ子の日々。監督のマイク・ミルズは自身の息子とのお風呂場でのやりとりから物語の構想が生まれたと語っているが、最終的に叔父と甥という関係に当てはめたことで、親子にとらわれない広い視野を持ったストーリーに仕上がっている。

© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズとアメリカの東西北南の都市を舞台としながらも、子供をお風呂に入れて、一緒に寝て、ご飯を食べるというありふれた日常を白黒で描く手法は、どこか小津映画を連想させるような趣もある。そこにある日常を美しいモノクロームで映し出すことで、観る者を “物語” へと無意識のうちに導いてゆく。

スケートボードの滑走音、風の音、電車や雑踏の音。マイクが拾うこの世界に溢れた音たちは、人々の営みが混ざり合って、騒がしくも心地よい響きを与えてくれる。この音響体験は是非とも劇場で体験してほしい見どころのひとつだ。

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ホアキン・フェニックスの愛と戸惑いに溢れたリアルな演技はもちろんのこと、スクリーンの中でのびのびと、そして誰よりも繊細な演技を見せつけるウディ・ノーマンの才能にも目が離せない。当時10歳で臨んだオーディションでは、英国出身でありながら完璧なアメリカ英語でアドリブ力を発揮し、それを見たマイク・ミルズとホアキン・フェニックスは小さくも偉大な才能に衝撃を受けたという。その感度の高さは劇中でも遺憾無く発揮され、時にはホアキン・フェニックスをもリードするほど。大人をハッとさせるような絶妙な間合いや、試すような目線、そして絶妙なタイミングで顔を出す無垢な子供らしさ。その全てを巧みに使いこなして惹きつける彼の表現力は、スクリーンの中で光り輝いている。

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ラジオジャーナリストであるジョニーが劇中でインタビューをするのは、アメリカで暮らす9歳から14歳までの子供たち。彼らが暮らす、デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズの4都市は同じ国に属しながらも、街並みも歴史も大きく異なる。それぞれの土地で生まれ育った子供たちは、年齢、性別、国籍、経済環境も異なる境遇の中で、未来のこと、家族のこと、アメリカについてといった普遍的な質問に対して、自分自身の言葉でしっかりと答えてゆく。その言葉の数々は、ピュアで繊細。そして、力強く、誠実なものばかり。

果たして同じ質問を投げかけられた時に、ここまで真っ直ぐな言葉をどれだけの大人が答えることができるのだろうか。「こんなこと叶うわけない」、「理解してもらえない」。長い年月の中で蓄積された自己否定の鎧を無意識のうちに背負い、重ねながら大人になってしまう人も多いかもしれない。いつからか大人は守る側で、子供は守られる側。助けてあげたり、赦してあげたりと “あげる” のは大人ばかりだとついつい思い込んでしまいがちだが、物語に寄り添う子供たちの無垢な言葉から、助けや、赦しに近い感情を覚えたのは個人的にとても印象的な体験だった。

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ジョニーがジェシーと接する日々の中で気付かされ、取り戻してゆくコミュニケーションのあるべき姿。その変化はジョニーと妹のヴィヴにとっても効果的に作用してゆく。兄妹感のわだかまりによってギクシャクしていた二人の関係に、濁りのない言葉で詰め寄るジョニー。「どうしてママと話さないの?」「どうしてママと兄妹っぽくしないの?」。子供を任せて、毎日お互いの状況をショートメッセージや電話で報告し合う二人の姿は一見、まずまず良好な関係に見えるが、その屈託のない問いかけを困ったようにはぐらかすジョニーとヴィヴの内面には素直になれないモヤモヤが残っている。

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でも、それでいいのだ。相手を完璧に理解することはできない。それでも話を聞くことはできるし、大丈夫じゃないときは素直に大丈夫じゃないって言えばいい。大人は完璧じゃないし、子供だって不完全ではない。

簡単に見失ってしまう当たり前を優しい光で照らし出す、マイク・ミルズの温かな眼差しをぜひあなたにも覗いてみてほしい。

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